何十年ぶりかに「高安犬物語」を読んだ。   

「野に咲く花になれ」と私に言ったのは、在りし日の父だ。大地の草むらに名も知れず、たぶんそれは凛とした輝きを持ってひっそりと独立しひっそりとこの世から散る草花だ。

最近はますます、そんな存在が好きだ。人でも動物でも他の生き物でも。

昨日は昼と夜と2回ライブがあった。一つは13:00からの「Com Cafe音倉」でランチタイムコンサート「いまむら直子の音楽旅日記」のデュオの演奏。もう一つは「北沢タウンホール・スカイサロン」で、世田谷労働組合連合会の歌の会の伴奏。両方とも下北沢なので、ランチタイムコンサートの後、時間を潰して夜まで現地で待つことにした。

下北沢の街はゆっくり歩くと面白い。アイデア満載の衣類や帽子が展覧会のように並んでいたり、古レコード屋や骨董品店もあちこちにある。舞台セットのような意匠を凝らした居酒屋もたくさんある。こんな部分に価値をつけちゃうんだ、というような、そういう視点が素晴らしく、どう生きたって自分がいいと思えばいいんだよ、みたいな自由さとあたたかさが楽しい。

ふと、北沢タウンホールの脇にある古本屋に立ち寄った。中を覗くと魅力的な本が天井まで並んでいる。それを見る時間は無いので店の外に出ている本棚をあさった。並べてる本がいいなぁ。ツタヤや普通の小さな書店とは比べ物にならない。あれこれ読み進め淘汰して3冊が手元に残り買い求めた。100円2冊と50円1冊!この50円の本に、帰宅後、はまってしまった。

文庫本「高安犬物語」(戸川幸夫著)。
以前もこれは読んだことがある。54頁の短編だが、風景や主人公(飼い主の吉と犬のチン)の生き様というかその世界観に魅了された。
裏表紙には「日本最初の本格的動物文学として昭和29年度直木賞受賞。山形地方にただ一匹純血を保つ高安犬の、密林で大熊と格闘する烈しい性格や、飼い主である荒くれ猟師を慕う強い愛情を描いた感動的な名作」と書いてある。

動物文学、というのは、動物を愛し動物に関して正確な知識を持っていて更に文才ある作家が担うべきだけど、そういう人はなかなかいない。動物は、自然のなんたるかを知る身近な存在で、人間も自然の一部なんだ、という幸せを思い出させてくれる。その思いは言葉にならないような想いで(そう、呼吸のようなものか…)、それを深く感じ抱くというのは誰にもある感情だけれど、文章で表現する、というのは難しく、文章にしようと考えた時点で、今度は文章ならではの思考や構成、質感に変化していく(音楽も同じだ)。
それを読者という他人と共有する時、伝わるものはまた変化する。それでも尚、こうして、ある種の感動が残る。それが名作、なんだろう。

まあとにかく、久しぶりに帰宅してコートも脱がずに立ったまま最後まで読みふけった。翌日になっても物語の中の色々なエピソードが心に残像として強く残っている。
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by imamusic | 2012-12-07 20:47 | 日々徒然 | Trackback | Comments(0)

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